かしこまメガトンパンチ

遊戯王とマンガ中心の雑記ブログ

星なき夜のアリア、技術と視聴者の進歩が詰まった「2021年のSAO」だった

「芸能人格付けチェック」という番組をご存知だろうか。自らを一流と豪語する芸能人たちの化けの皮を剥がしていく痛快な番組である。我々も同じだ。2012年の本編放映時、我々は「SAO」に追いついていなかった。

 

そして「星なき夜のアリア(以下:アリア)」は間違いなく「2021年のSAO」だった。

sao-p.net

 

「アリア」アインクラッド編のリメイクであり、オリジナルキャラクター「兎沢深澄(ミト)」を加えたアスナの視点で進行する。

とは言え単なるリメイクではなく、物語の半分はミトとの交流が描かれている。新しい技術を駆使した新しい「アインクラッド」を目指した*1だけあり、最新の技術をふんだんに駆使したアスナの入浴シーンなど、アニメ本編で描かれなかったシーンが活き活きと描かれている。

「アリア」が映像作品として珠玉の出来だったことは言うまでもない。3Dフロアを活かしたカメラワーク、リアレンジされた壮大な音楽と、進歩した技術と劇場版だからこその手法で最高のリメイクに仕上がっていた。

今回は劇場版ということで、シーンに合わせてフィルムスコアリング(絵に合わせて音楽を作る手法)でリアレンジした曲も多かったですね。

フィルムスコアリングの場合は、シーンにカスタマイズした音楽を作れるということです。たとえば戦闘シーンの途中で会話シーンに切り替わったとしても、その間リズム音だけを残しておいて、戦闘に戻った時に音楽をリスタートできる。ブレーキをかけることなくテンポ感を持続できるので、絵と音楽の一体感が上がるんです。

劇場版パンフレット スタッフインタビューより(一部抜粋)

しかしながら、「アリア」の興奮を支えているのはそれだけではない。

当時と比較して、視聴者側の「SAO世界を理解する素養」も間違いなく培われている。プレイしたゲームの本数がそのまま直結していると言ってもいい。俺たちがSAOに追いついた。

例えば、作中で「アスナがエネミーに囲まれ、回復薬を消費しながら戦いを続ける」というシーンがある。一方で、当たり前な話ではあるが、ゲーム内で同様の体験をしたプレイヤーは間違いなく増えている。回復したそばから殴られ、今の回復分を帳消しにされる――有名タイトルで言えば、購入出来る蘇生アイテムが最大HPの半分しかない「ポケモン」などがわかりやすい。逆にやどみがエルフーンとかな。

また、ソーシャルゲームの台頭で「HPゲージのあるゲーム」をプレイした人口は間違いなく増えたし、それが「直近の体験である」人も少なくないだろう。

「アリア」はリメイクであるが故に、ある程度先の展開はわかる。どれだけアスナが危機に晒されようが死ぬことはないし、一層のボス戦もディアベルを除き全員生存する。緊張感を作りにくいというハンデを抱えているのだ。

しかし、「ゲームとしてのSAO」を前面に押し出した演出と、視聴者のゲーム体験がそれを感じさせない。例えば一層のボス部屋の出現演出、「扉が閉まる」演出が追加されている。「ゼルダの伝説」などでもお馴染みの、後戻り出来ない演出だ。地面から湧き出ていた取り巻きのモンスターも、落下した水晶球から出現していた。

加えてボスのHPゲージも、にょんにょんと伸び「HP、こんなにありますが?」と言わんばかりの演出が絶望感を煽る。元々は混戦のように描かれていた戦闘も、取り囲み間合いを計るシーンが参加者の心情を感じさせる。

つまり、本編と比較した時に、圧倒的に「ゲームらしい演出」が増えた上に強化されている。そしてそれらの演出は、ゲームをプレイしている人間ほど「危機」や「強さ」を感じ取れるようになっており、視聴者の記憶や共感を通じて緊張感を高める装置と化していた。

 

「アリア」は視点を変えただけのリメイクでは決してなかった。進歩した技術で描かれる圧倒的な映像美、一体となった音楽、鋭い演出。それら全てが閃光のように視聴者を貫く、「2021年のSAO」と呼ぶに相応しい出来だった。

往け

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*1:劇場版パンフレットのインタビューより