かしこまメガトンパンチ

遊戯王とマンガ中心の雑記ブログ

【漫画】遅効性SF「ワールドトリガー」の魅力について語る【9巻まで無料】

葦原大介先生の『ワールドトリガー』1〜9巻が、Kindle試し読みキャンペーンを行っています。

2020年1月6日までの期間限定ですので、年末年始のこの機会にぜひ触れてみてください。終わったので普通に全巻買ってください。

 

ワールドトリガー コミック 1-21巻セット

ワールドトリガー コミック 1-21巻セット

 

 

さて、ワールドトリガーと言えば「遅効性SF」が公式キャッチコピーコンテストで大賞に採用されています。葦原先生も大賞に即決したそうです。

実際にこの「遅効性SF」というのは大げさでもなんでもなく、じっくりじっくりと描かれた展開が、毒を孕んだ飴玉のようにあるタイミングから一気にその猛威を放ち始めます。

今回はこの「何故ワールドトリガーは徐々に面白くなっていくのか」という点を絡めながらワールドトリガーの魅力を語っていきたいと思います。

 

 

主人公たちの目的とその手段

主人公・修たちは、それぞれの目的を持って異世界を目指しており、そのために所属する組織「ボーダー」でランクを上げて遠征部隊に選ばれることを当面の目的としています。

現在ワールドトリガーは21巻まで発売されていますが、その半分ほどがランクを上げるためのチーム模擬戦(通称:ランク戦)の描写に使われています。

 

ランク戦の使用武器について

ランク戦は、組織内のレギュレーションに沿って進んでいます。自分のチームのメンバーも対戦相手も、量産型の武器(トリガー)を使用しているのが特徴です。ですので、ランク戦に限れば、バトル漫画というよりは、オリジナルスポーツ漫画のようなイメージが強いです。

もちろん、工夫や戦術、技術などにより各隊員の差別化はされています。しかし、あくまで組織内での模擬戦のため「対戦相手の能力が対戦時に初めて判明する」ということはありません。各隊員は、以前のランク戦の記録映像から情報を仕入れて試合に臨みます。

お馴染みの、未知の武器や能力を持つ敵と遭遇し、その能力が明かされるところからスタート――という展開はほぼありません(※ランク戦以外ではあります)

そして、戦闘中に武器が進化したり新しい能力を手に入れてそれで勝つ――ということもありません。隊員は、予め自分で決めた武器とオプションの組み合わせで戦います。このシステムが、巻を追うごとにランク戦を面白くしています。

 

武器の運用法が増えていく

ランク戦では、各隊員は大きく分けて

  • 近接戦闘:アタッカー
  • 中距離で飛び道具:ガンナー/シューター
  • 遠距離射撃:スナイパー

この三種類のいずれかのスタイルで戦います。そして、それぞれのポジションに対応した武器というのは多くありません。2~4種類程度(オプション除く)です。

そして、出てくる武器の殆どは4巻で提示されています。更に、5~10巻の「大規模侵攻編」でその多くが普通に使われます(大規模侵攻編も、一点ものの武器を使う侵略者を、ボーダーの隊員が量産型武器で地道に地道に攻略していくのが非常に面白いので是非無料お試しの間に読んでみてください)

つまり、隊員たちが「何を使って戦うのか」というのはある程度事前にわかるようになっています。

となると、工夫も何もないのでは……? と思うかもしれません。

 

ところが、

  1. それぞれの武器の特性を読者に提示
  2. それらがどのような仕組みで成り立っているのかを解説
  3. そしてそれをこう運用するとこんなことができます!

と、見知った武器にも関わらず読者に新しい戦い方を魅せてくれます。

 

黒子のバスケ」というバスケットを題材にした作品では、コート上のどこからでも3Pを決められる「緑間真太郎」というキャラが出てきます。この「どこからでも3Pを決められる」という点を読者が「凄い技能」と感じられるのは、バスケットという競技を読者が知識として持っているからですね。

しかし、ワールドトリガーは独自のレギュレーション・独自の戦闘スタイルで戦う作品であり、世界観やキャラクターの常識も普通の世界とは異なります。つまり、読者は0からその世界の知識を習得する必要があります

そして、ワールドトリガーでは「知識」の部分に当たる「世界の背景描写」や「量産武器で何が出来るのか」のチュートリアルが10巻くらいまで続きます。それぞれの展開や描写を読者が面白いと感じるためのラーニングに、しっかりと巻数と描写が使われています。

 

そして、10巻までじっっっっっっっっっっっっっっっっっくり熱を加えられた知識の種が、11巻から始まるランク戦から破裂します。無料お試し分足りてません先生。

 

シューターの使う、「変化弾(バイパー/使用者がイメージした弾道を描く弾)」という武器を例に出しましょう。

バイパーは4巻で解説され、その後大規模侵攻編で各キャラが使用しています。ここまでは、「曲がる弾」という印象であり「予期せぬ方向に曲げて命中させたり、撃った方向を誤認させる」という運用に留まっています。

そして、11巻からバイパーがランク戦で本格的に使用されます。ここで出てくるのがボーダー屈指のバイパー使い那須玲」

ここで「バイパーの曲がる仕組み」が明かされます。その結果那須は、

  • 障害物に隠れた相手を狙う

というオーソドックスな使い方に留まらず、

  • 飛んでいった弾が相手の全方位を取り囲むように曲がる
  • 様々な方向に飛んでいった弾が直前で一点集中しシールドを突き破る
  • 前方に飛んでいった弾が外れた場合、自分の後方にいる相手に戻っていく

と、常に変化し続ける戦場に応じた運用を見せます。これを涼しい顔でやるのがまためちゃくちゃ格好良いんですよ。

 

また、ガンナーというポジションは主人公のチームにはありません。

ガンナー自体はランク戦でも多く目にしますし、「ああ、あの銃使うポジションね」くらいのありふれたポジションですが、なんとこのガンナーの超強い人21で登場します。

とはいえ、主人公たちがランク戦を始めた時点では当然下位で、巻が進み上位に行くほどに強者が増えてくるのは必然です。そして、読者も実際にランク戦でそれぞれの武器が使用されているのを見て「どの武器がどのように使用されているのか」といった形で知識がちょっとずつちょっとずつ深まっていきます。

こうして「読者の知識の深化」と「作中に登場するキャラの強化・技能の向上」が同時進行で行われていきます。

そして、読者が「キャラの凄さを理解するための知識の習得」をしたタイミングで「量産武器で新しい戦術・技能を披露するキャラ」が出てきます。

ワートリは、「あるタイミングから作品のスタイルが変わって急に面白くなった」という側面も勿論あるとは思いますが(実際序盤は世界観とか背景とかの説明多いです)、実際には「ワートリの世界でのみ使われる知識」を提示し「それらを理解したことによって初めて分かる凄さ」を絶妙なタイミングでお出ししてくる、巧妙に計算された作品なのです。

 

玉狛第二の成長 

主人公チーム・玉狛第二は早期からかなり注目を集めるも、エースである空閑遊真以外が点を取れないと評される、そんなチームでした。

勝てば反省点が浮かび、改善して次に望めばまた新たな反省点が浮かび……の繰り返しですが、実際は有効な改善策が打ち出せないまま話が進んでいきます。

しかしながら、冒頭で述べたように主人公たちの目的はランクを上げることです。当然、遊真以外のメンバーも強くなる必要があります。

そして、転機が訪れます。あまり語りすぎるのも楽しみを奪うと思うので、結果としてどうなったかは皆さんの目で確かめて頂きたいんですけど、ちょっとだけネタバレをすれば既存の技術を習得します。

今までの戦い方では勝てないから封印されていたあの技術を解禁しよう――といった類の話では決してなく、今までの戦いで使われていたが、人気が無い、もしくは別の理由で使用者が少なかった技術を習得します。

実際、それらの技術は作中で効果的に活用されています。しかし、それらは人型以外の戦闘で使用されていたり、明確な弱点を抱えていたりとランク戦での使用率が低い理由付けもされています。

そんな中で、玉狛第二に何故それらの技術が合っているのか――というよりは、ランク戦を繰り返す中で玉狛第二の課題を浮き彫りにしつつ、各メンバーの出来ることや能力をじっくりじっくり描き、「このタイミングで強化するならこれしかない」と読者がしっかり納得出来るように着地させています。

決められたレギュレーション、個人が急激に成長出来ない設定が、たとえ主人公であっても急に強くなるという展開に説得力を持たせることを非常に難しくしています。

しかし、じっくりじっくりと描かれた展開が、丁寧に丁寧に、周到に周到に張られた伏線が、着地となる部分に確かな説得力を持たせています。

読んでいる側にすっ、と納得が降りてくる瞬間の心地よさが、本当に絶妙なタイミングで現れます。これが、ワールドトリガーを「遅効性SF」たらしめる要因の一つとなっています。

 

さいごに

試し読みキャンペーン2020年1月6日までの期間限定となっております。

おそらく近いうちに大きな転機が訪れる「ワールドトリガー」、年末年始のこの機会にぜひ触れて、読み終えたらもう一周して、ついでにデータブック(超面白いです)も読破して、是非この興奮をリアルタイムで味わってみてください。

 

 

「アクタージュ」もよろしくね!